Vol.01
丸井グループ×東宝×オレンジ「そばへ」
石井俊匡監督&福原遥さんが明かす、制作秘話と見どころ
『君の名は。』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』などを手がけた東宝と、『宝石の国』などでおなじみのオレンジが手がけたオリジナルショートアニメーション『そばへ』が、3月7日YouTube「マルイノアニメ公式チャンネル」にて公開された。
『そばへ』は、「雨」をモチーフに3DCGの強みを活かしたオレンジによる美しい映像、読者に解釈の余地を残すストーリー、そして牛尾憲輔作曲の神秘的な楽曲など、短い尺の中に様々な要素が詰まっている作品だ。
今回、本作にて監督デビューを果たした石井俊匡さんと、紗友を演じ、BGMにも声を吹き込んだ女優の福原遥さんにインタビュー。
作品への思いや、制作当時のエピソードをお聞きした。手軽に観られる配信作品ということで、まずは本編を鑑賞していただいてから、本記事を読むことをオススメしたい。
[取材・構成=山田幸彦/撮影=小原聡太]
何回でも観たくなる、発見のたくさんある映像に
――今回、マスコミ向け試写直後のインタビュー取材となりますが、ご自身でも改めて作品をご覧になられたそうですね。いかがでしたか?
石井
大きなスクリーン、大きな音、そして自分以外の人がたくさんいる環境で観たのは今日が初めてでした。
制作中のモニターチェックでは、「あそこをこうすればよかったな……」という反省が毎回あったんですが、今回は「完成してよかったなぁ」と、ほっとする気持ちが先に来ました(笑)。
――福原さんはいかがでしたか?
福原
自分の声がこんな素晴らしい作品に入っていて大丈夫かな……って、ドキドキしながら観ていました(笑)。
監督の言う通り、大きなスクリーンで観ることはモニターで観るのとは全然感覚が違って、作品を奥の奥まで感じることができましたね。
これが配信だけでなく、映画館のCMでも流れると思うと嬉しいです。
――ストーリーについて、紗友にプレゼントされた傘が人の手を渡って統のところに戻っていく……という大筋以外は、かなり受け手の想像の余地を残す映像という印象を受けたのですが、福原さんは本作をどう捉えられましたか?
福原
最初にまだ色がついていない段階の映像をいただいたのですが、1回観たときと何回か観た後の印象が全く違っていましたね。
最初はふたりの関係性や、この傘がふたりにとって大切なものであることが伝わってきたんですけど、何回か観た後は、この傘が妖精さんとしていろいろな人を経て、彼の元に帰り着くまでの旅路が印象に残るようになっていて、本当に奥が深い作品だなって。
何回も観ていくと、「傘にくっついている猫ちゃんは雨が嫌いなんだ!」とわかったり、小さい子どもやおばあちゃんといった周囲の傘を持っている人たちが丁寧に描かれていることもわかる。そういう発見がたくさんあるのも面白いですね。
――観る方に委ねる作りというのは当初から意図されていたのですか?
石井
結果そうなったという感じですね。
「プレゼントした傘が戻ってきて、その傘を使ってみたら世界が綺麗に見えた……それを限られた尺のなかでどう表現すればいいんだろう?」ということは、自分の中の悩みとしてあったんです。
そこから最終的に、「ポイントとなる部分だけわかりやすくして、あとはカット単位ではひたすら面白いことを描いていけば大丈夫なんじゃないかな?」と思いまして。
例えば、最初のカットの雨の陰鬱な感じとラストカットの綺麗さは、一発で差を感じとれるくらい画の作り方を変えています。
そういった部分をとっかかりに観てもらえるといいなと思います。
福原
本当に何回観ても飽きないんですよね。
石井
そこは、音楽に支えていただいているところもあると思いますね。
――牛尾憲輔さんが今回音楽を担当されていますが、劇中のBGMを初めてお聞きしたときのご印象はいかがでしたか?
石井
最初聞いたときにプレッシャーを感じました。
牛尾さんには絵コンテをベースにしたラフカッティングをお渡しして、それに曲を付けてもらったんですが、上がってきたものを聴いてみたら、映像に合わせた盛り上がりなどもしっかりと作り込まれていたんです。
僕自身、作品の最終的な方向性をそこで掴んだ部分もありました。本当に素晴らしかったです。
――音楽から作品にフィードバックされた部分も多かったのでしょうか?
石井
ラフカッティングに音楽をつけてもらった後に本番のカッティングを行ったので、音楽に合わせて動きやカットのタイミングなどを調整しています。
例えば、本編中盤(※再生時間1:30~)で夜明けのカットがありますが、「曲の転調に合わせてもっと神秘的にしないとダメだ!」と思ったんです。
そこで、撮影さんにもご理解いただき、良い感じの日の出のタイミングにしていただきました。
――福原さんの声が楽曲に取り入れられているのも特徴ですよね。
福原
いろんな声を何テイクも録ったのですが、実際に聞いてみると「こういう風に使われていたんだ!」などの発見があって、面白かったですね。
とにかく自分の声がこんなに素敵な音楽になったことが本当に嬉しくて、ずっと聞いていました(笑)。
雨への徹底したこだわり
――今回の制作スタジオは3DCGアニメを制作されているオレンジさんですが、石井監督へオファーがかかったときのご心境は?
石井
3DCGのアニメはいろんなスタジオが作ってはいるけれど、まだ手探りな部分もあります。そういう段階の内に携われるのはとても面白そうだと思いました。
そんな中で、「これ、良いじゃん!」という表現を見つけられれば、大きな収穫になるなと。
そういった部分をとっかかりに観てもらえるといいなと思います。
オレンジ作品の『宝石の国』などは業界でも評判でしたから、「それを作っているスタジオはどんなものなのだろう?」と興味津々で現場に入りました。
――オレンジの作品は非常にセルに近い質感のルックが特徴的なので、これまでのキャリアでセルアニメがメインだった石井監督としても違和感なくCGの世界に入れたのでしょうか?
石井
おっしゃる通り、自分もセルに近い感じでフィニッシュするというイメージで現場に入ったのですが……アプローチは全く違いました(笑)。
そんな中で、結局セルにもCGにもそれぞれ強みと弱点があることを知っていき、「無理にセルに寄せる必要もないんだな」と気づくことができましたね。
制作中は試行錯誤の連続だったのですが、もしまたCG作品の制作に携わる機会があれば、今回の経験を活かしていきたいです。
――本作のモチーフである「雨」を3DCGで描くうえでこだわられたポイントはなんですか?
石井
とにかく綺麗に見せようというのが大前提にありました。CGスタッフもかなりこだわったところです。
水の表現で使用される流体シミュレーションは、そのままだと現実の物理法則に則った仕上がりになるのですが、もうちょっと印象的に見せられるように、水たまりから跳ねる水などを派手な方向に調整してもらいました。
とはいえ、雨周りの全てを派手にしたわけではなく、最初の傘が雨に打たれているカットなどは、雨の嫌な感じを出せないかなと思って、細かく雨が落ちる表現にしました。
空き缶に水滴が当たる音もしっかり入れてありますので、耳を澄まして観ていただけるとより楽しめるかなと思います。
あとは、スローモーションになるカットでは3Dならではの奥行きを加味したり、リアルな表現と誇張したアニメ的な表現の良いとこ取りをして、雨にいろんな意味を含ませることができたかなと。
――クレジットにはモーションキャプチャー関連の表記がありましたが、モーションキャプチャーの演出に携われたのは初めてでしょうか?
石井
初めてでしたね。演者さんに「演技、こんな感じでお願いします!」とお伝えして動いてもらったのですが、タイムシートで時間を測ってチェッカーで動きを見るというセルアニメの工程とは全く違いました。とても難しかったですね。
最初のうちはモーションキャプチャー後、どう映像に落とし込まれていくのかもピンと来ていなかったので、どんな動きを撮っておけばいいのかを選別するのも大変でした。
タダではないので、演者の方に軽い気持ちで「これも撮っておいてください、あれも撮っておいてください!」というわけにはいきませんからね。
傘の妖精さんが階段を駆け上がるカットなど、現実離れした動きのほうが合うと思ってアニメ的な表現に調整したところもあるんですが、ラストに登場する紗友の動きなどは、モーションキャプチャーを活かして彼女の元気さを表現できたと思います。
石井監督が次に見てみたいのは、意地悪なCV福原遥キャラ?
――本作は丸井グループの掲げる「インクルージョン」というテーマがあり、企業PR的な側面もあると思うのですが、作られるうえや演じられるうえで、通常の商業作品との違いはありましたか?
石井
感覚的には、普段の作品と変わらなかったですね。
むしろ、ほとんど縛りがなかったんですよ。それこそ「インクルージョンが表現されていればオッケーです」というくらいだったので、驚かされました(笑)。
福原
セリフが少なかったですし、そんな中で自由にキャラクター像を作ることができたので、私もそういった違いは特に考えずに取り組んでいました。
ただ、ひと言でキャラクターをどう表現するかは悩みましたね。最終的には自然体で演じたんですが、「気合いを入れたほうがいいのかな?」と考えてみたり。
――今回は非常に少ないセリフ量の作品ではありますが、石井監督の中で「福原さんのこういう面を見てみたい」という気持ちは湧きましたか?
石井
そうですね、すっごく意地悪なキャラとか見てみたいです。
福原
えー!(笑)。
石井
ネガティブな意味じゃなくて、普段の福原さんと違って、毒を吐くとかそういうアプローチのお芝居も見てみたいなと。
あとは完全な動物キャラの役とか、可愛く元気なだけじゃない演技をする福原さんも見てみたいと思いました。
――では、ぜひ石井監督が再び福原さんと組んでそういったキャラを作っていただけると。
石井
今後のことはまだわかりませんが……考えておきます(笑)。
福原
いいですね(笑)。
石井監督の作品は緩やかな流れがとても心地よいんですよ。今回みたいに、何回観ても味が出る奥の深い作品をまた作っていただいて、その中の役をやってみたいな……と勝手に期待しています!
――こちらも楽しみにしております。最後の質問になりますが、『そばへ』を観るにあたって、それぞれの注目して欲しいポイントを教えてください。
石井
CGの表現や音楽、そして福原さんの声も入って本当に美しい映像に仕上げることができました。まずは2分観てもらって、綺麗だなと感じてもらえれば嬉しいですね。
その中で「これどういうことなんだろう?」と思うところも多分にあると思うので、よければ何度も観ていただき、みなさんなりの感じ方をしてもらいたいです。
福原
私自身、この作品は何気ないゆっくりしてる時間に観たい作品だと思いました。みなさんにとっても安心したいときに観る位置づけのアニメになってくれればいいなと思います。
何回も観る中で、この作品が日常のちょっとした幸せや、自分が大切にしているものを改めて見つめ直すきっかけになってもらえると嬉しいです。
ぜひ観てください!
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